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1-01. バベルの図書館の所蔵本は何冊あるのか

バベルの図書館とは

 バベルの図書館はアルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスが1941年に発表した「八岐の園」に収録された短編小説「バベルの図書館」に登場する同名の図書館です。この図書館にはいったいどのような本がどれぐらい所蔵されているのでしょうか。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスと「八岐の園(1941年)」
ホルヘ・ルイス・ボルヘスと「八岐の園(1941年)」

 バベルの図書館は伝奇集に収録されています。

バベルの図書館の構造

 バベルの図書館の構造からみていきましょう。バベルの図書館は蜂の巣状に無限に連なった六角形の部屋が無限に積み重なった建物です。それぞれの六角形の部屋は図書の閲覧室となっており、すべて同じ構造をしています。六角形の部屋の中央には吹き抜けがあります。6面のうち4面は本棚となっています。ひとつの本棚は5段で1段には本が32冊収蔵されています。残りの2面はホールに通じています。このホールには2つの入り口があります。ホールの内部の左右には小部屋へと続く扉があります。小部屋のひとつは立ったまま眠ることができる寝室、もうひとつはトイレになっています。このホールから同じ階層の隣の閲覧室に移動することができます。また、上下の閲覧室に移動するための螺旋階段が設置されています。照明はランプという名前の光を放つ果実でもたらされています。

バベルの図書館の構造
バベルの図書館の構造

バベルの図書館の構造は下記サイトの図を見るとイメージしやすい。

OPEN CULTUREWhat Does Jorge Luis Borges’ “Library of Babel” Look Like? An Accurate Illustration Created with 3D Modeling Software

 バベルの図書館には司書・探索係・翻訳者が住んでいます。彼らはバベルの図書館で一生を過ごしますが死者は中央の吹き抜けから落とされます。一人の年老いた司書の回想によりバベルの図書館の物語が進んでいくのです。

バベルの図書館の所蔵数

 バベルの図書館に所蔵されている本は全て同じサイズでどの本も1ページあたり80文字×40行で全410ページという構成になっています。本に使われている文字は小文字のアルファベット22文字と空白、コンマ、ピリオドの3文字を合わせた25文字しか使われておらず同じ本は存在しません。

バベルの図書館の所蔵本
バベルの図書館の所蔵本

 バベルの図書館はこの25文字の組み合わせからなる文章でできあがった本をすべて収蔵しています。つまり、これまでに出版された本、これから出版される本がすべて所蔵されいるのと同時にでたらめに文字が羅列しているだけの意味のない本も収蔵されています。ですから、例えば全て空白のページの本、同じアルファベット1文字が全てのページに羅列した本などがあるはずですし、シェークスピアの作品も収蔵されているはずです。この小説の序章でボルヘス自身もこの作品も既に所蔵されたものであるとしています。しかし、全体としてはでたらめに文字が並んだ本が多いはずですからバベルの図書館に収蔵されている本の大半は意味のない本ということになります。

 バベルの図書館に所蔵されている本の数は文字の組み合わせで考えることができます。1冊の本は80文字×40行×410ページですから1,312,000文字から成ります。

 使われている25文字の組み合わせでできる本の数は25を1,312,000回掛け算した数字になります。つまり、251312000 冊となります。これを普通の電卓で計算しようとするとオーバーフローでエラーになってしまいますが計算すると

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となります。バベルの図書館にはとんでもない数の本が所蔵されているのです。しかし、数えられる限りは所蔵本の数は有限です。

 デジタル化が進んだ現在において日本で1年間に出版される本は約7万冊と言われています。そして国際出版連合(IPA)によるとこれまでに推定1億5千万の本が出版されたという報告があります。この数字を考えるとバベルの図書館には過去に出版され未来に出版されるであろう全ての本が所蔵されているというのは妥当な話でしょう。

バベルの図書館の所蔵本はどのようにして作られたのか

 バベルの図書館の所蔵本はすべて25文字の組み合わせでできています。でたらめに文字が羅列した本が多数あるということは、これらの本は乱数で発生された文字列の組み合わせでできていると考えられます。たとえば25文字のキーボードをでたらめに叩いて文字を打って次々と本を作り出したと考えられます。できあがった本の中には意味の通じるものがある確率で存在するでしょう。

 それではシェークスピアの文学作品と全く同じ内容の本ができる確率はどれぐらいでしょうか。その確率は0ではありませんが、作品ができあがる確率は極めて0に近いと言えるでしょう。つまり、バベルの図書館に意味の通じる本が収蔵されているのは奇跡的なことです。いったいどれぐらいの時間をかけて意味の通じる本ができあがるのか想像がつきませんが、十分に時間をかければ意味の通じる本ができあがると言えるでしょう。

 このことを考えるのにちょうど良い思考実験があります。でたらめに文字を発生し一冊の意味ある本ができあがる確率は「無限の猿定理」で考えることができます。


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