天体の運動からの経度測定には限界があった
天体の運動を利用して経度を測定する方法はいかなる方法であっても洋上を動き回る船舶にとって実用的なものではありませんでした。実際に経路が分からなくなった船舶の遭難事故が相次いで発生していたのです。
1714年、イギリスは海上で船舶が経度を正確に測定する方法を開発した者に2万ポンドの懸賞金を与える経度法を制定しました。経度を正確に測定する方法という一般論的な表現は天文学者へ配慮したものだったのかもしれません。実質的には海上で利用できる正確な時計の開発でした。当時、正確に時を刻む時計は既に存在していましたが、振り子時計だったため海上で揺れ動く船舶では使い物にならなかったのです。
ジョン・ハリソンによる海洋クロノメーターの発明
この経度法に対応したゼンマイ式の時計「海洋クロノメーター」を開発したのがイギリスの時計職人ジョン・ハリソンです。ハリソンが作成したものは揺れや温度変化の影響を避けるためのバネが取り付けられていました。ネジを巻いている間も、動いている間も常に時計の回転が一定になるような仕掛けで正確に時を刻むことができました。
ハリソンは試作品を発表しながら開発資金の援助を得て1759年に海上でも実用的に使用できる海洋クロノメーターの開発に成功しました。1769年にこの海洋クロノメーターのレプリカが作成されイギリス海軍の艦船に配備されました。ジェームズ・クック船長が第二次航海でその実用性を認め高く評価しました。イギリス海軍の作戦実行の能力を高めました。
こうしてレーマーの光速の報告から 80年以上の時を経て船舶で経度を正確に求めることができるようになったのです。
ところが天文学的方法に固執していた著名な天文学者たちの反対やハリソンが平民の時計職人だったことからハリソンの実績は認められず報償金も全額が支払われませんでした。
その事実を知った国王ジョージ3世はハリソンに対する差別的な対応を強く非難し、ハリソンに国王臨席で海洋クロノメーターの実験を行うように命じました。1773年に実験が行われハリソンの海洋クロノメーターは1日にわずか1/14秒の誤差で正確に時を刻むことが実証され、ハリソンは2万ドルの報償金を受けとることができたのです。
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