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1-10. 思考実験「光速度不変の原理」

光速で走ったら顔に顔が映らなくなるのか

 相対性理論を導いたドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインも多くの思考実験を行っています。ここではアインシュタインがどのようにして光速度不変の原理にたどり着いたのか、その思考実験について考えてみましょう。

 一説によると高校生のアインシュタインは昼休みに学校の裏山で寝転んで空を眺めているうちに眠りについてしまい、自分が光速で光を追いかける不思議な夢を見たそうです。この夢がきっかけとなってアインシュタインは光速度不変の原理につながる思考実験に取り組んだと言われています。

光速で移動したら鏡に自分の顔が映るか
光速で移動したら鏡に自分の顔が映るか

 当時、光は空間を満たす未発見のエーテルという媒質を伝わると考えられていました。つまり光速は光がエーテルを伝わる速さと考えられていたのです。そこでアインシュタインは手鏡に自分の顔を映しながら走ったとき、光速と同じ速さになったら自分の顔が鏡に映らなくなるのだろうかと考えました。しかし、もし自分の顔が映らなくなるのであればそれは物理の法則に矛盾すると考えたのです。

ガリレイの相対原理

 下図のように直線の高速道路を同じ方向に時速 80 キロメートルで走る自動車Aと時速 100 キロメートルで走る自動車Bを考えてみましょう。AからBを見ると、Bは時速 20 キロメートルで進行方向に遠ざかって行くように見えます。逆にBからAを見ると、Aは時速 20 キロメートルで進行方向と逆の方向に遠ざかって行くように見えます。この見かけの速度のことを相対速度といいます。もしAとBの速度が同じであればAからBを見てもBからAを見ても相対速度は0で動いていないように見えます。これがガリレイの相対原理です。

ガリレイの相対原理
ガリレイの相対原理

 ガリレイの相対原理からニュートンが導いた慣性の法則(運動の第1法則)によれば、私たちは一定の速度で動いているとき、どれぐらいの速さで、どの方向に動いているのか認識できません。そもそも動いているかどうかさえわからないのです。

 慣性の法則を上述の自動車の例にあてはめてみると、AとBは一定の速さで動いているため、ドライバーはまわりの景色や相手が見えなければ自分が動いていることに気がつかないはずです。またAとBの速さが同じであればそれぞれのドライバーにはお互いある一定の距離を置いて静止しているように見えます。この場合、相手が見えていてもまわりの景色が見えなければ自分が動いていることに気が付かないはずです。

アインシュタインが気が付いた矛盾とは

 さてアインシュタインの思考実験に戻りましょう。手鏡に顔を映しながら一定の速度で移動しているとき、自分の顔が映った手鏡も自分も同じ速度で動いています。このとき慣性の法則に従えば自分が動いていることがわからないはずです。

 それでは光速と同じ速さで移動したらどうなるでしょうか。自分も手鏡もエーテルの中を光速で進むわけですから、自分の顔から出た光は鏡にたどりつくことができなくなります。顔から出た光が鏡に届かなくなれば、鏡には顔が映らなくなります。つまり鏡に顔が映らなくなることによって自分が動いていることがわかってしまうことになります。

 アインシュタインは光速で移動したときにだけ自分が動いていることがわかるのは物理の法則に矛盾すると考えました。そしてアインシュタインは当時未確認だったエーテルの存在を否定し、光にはガリレイの相対原理は通用しない、つまり光速は観測者によらず、いつも同じ大きさであるという結論に達しました。

 アインシュタイはこのような思考実験で光速度不変の原理にたどり着いたのです。やがてエーテルが存在しないことや光速度が不変であることが実験で確かめられ、アインシュタインの考えが正しいことが証明されたのです。この話は後に詳しく考えることにしましょう。

 思考実験の例は枚挙にいとまがありませんが、科学・技術は思考実験と現物実験の繰り返しで発展してきたとも言えるでしょう。


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