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3-01. 光速は無限大と考えられていた

光は一瞬で伝わる

 真っ暗な部屋で電灯をつけると一瞬で光が部屋に満ちあふれて明るくなります。また懐中電灯の光で離れたところを照らすと、照らしたところが一瞬で明るくなります。このように私たちは日常経験から光が一瞬で伝わることを知っています。

 光が一瞬にして伝わることは古代の人たちも知っていましたが、紀元前450年頃に活躍した古代ギリシアのエネペドクロスは太陽から光が地球に届くまでには時間がかかると考え光速は有限であると主張しました。しかしアリストテレスをはじめとする多くの哲学者は光は瞬時に伝わると結論づけていました。科学的根拠はありませんでしたが、目を開くと直ちにものが見えるなどの体験が光が瞬時に伝わることを裏付ける有力な証拠になったのです。

 レンズや鏡を使って光の現象について研究した初期の光学の科学者で13世紀に活躍したアラビアのイブン・アル=ハイサムやイギリスのロジャー・ベーコンは光速は有限であることを主張していますが、当時はアリストテレスの自然科学が広く支持されたのです。

 光が瞬時に伝わるということは光速が無限大ということになりますが、アリストテレスは光は運動ではないと述べています。運動でなければどのように空間を瞬時に伝わるのかも疑問ですし、速さについて言及できるのかという疑問も生じます。しかし、ここでは光が瞬時に伝わると光速は無限大は同じ意味と考えましょう。

光速は無限大と結論づけられた

 真っ暗な部屋で電灯をつけると一瞬で部屋全体が明るくなるという現象も光速が無限大なのか有限の大きさなのかのによって原理は異なります。光速を無限大とした場合、光は部屋のあらゆる場所に同時かつ瞬時に届きます。光が空間を伝わるのに時間がかからないからです。一方、光速を有限の大きさとした場合、光は部屋のあらゆる場所に微小な時間をかけてわずかな時間差で届きます。光は空間をとてつもない速さで伝わるため日常の体験では認識することはできないけれども光が空間を伝わるのには時間がかかるというわけです。

 光速が無限大か有限の大きさなのかについては、その後も議論が続きましたが、多くの科学者は光速は無限大という解釈を支持しました。近世においても光の屈折について考察し虹ができる仕組みを解き明かしたフランスのルネ・デカルトや、天体の運動を考察しケプラーの法則を導いたドイツのヨハネス・ケプラーも光速についての研究の結果、光は一瞬にして伝わると考えていました。しかし、光が速すぎて光速を測定できなかっただけで、光速が無限大である証拠は何もなかったのです。

ヨハネス・ケプラーとルネ・デカルト
ヨハネス・ケプラーとルネ・デカルト

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