.Header .description 2-20. 競技場|ゼノンのパラドックス|思考実験の科学史

2-20. 競技場|ゼノンのパラドックス

競技場とは

 第4のパラドックスは競技場において同じ長さの2台の馬車が同じ速さですれ違うときに発生する矛盾を指摘したものです。このパラドックスは文章だけで説明するのは難しいので最初から図を使って考えてみましょう。

競技場のパラドックス
競技場のパラドックス

 2台の馬車 A と B が観客席の前ですれ違い状態 a になった後、それぞれの先頭が観客席の端に達した状態 c になりました。状態 c では A の馬車の先頭が観客席の右端に達しています。このとき B の馬車の先頭は観客席の左端に達しています。状態 a から状態 c に移り変わる過程においてAの馬車の先頭が観客席の残り半分を通過する一方で B の馬車の先頭は A の馬車をすべて通過します。

ゼノンの主張

 ゼノンは競技場においても「物体は運動する」を真の命題とします。ゼノンがどのようにして「物体は運動する」の矛盾を導き出し運動を否定したのか考えてみましょう。

 ここで次の図のように静止状態の観客席 S、左から右に移動する馬車 A、右から左に移動する馬車B の関係を考えてみましょう。

競技場の模式図
競技場の模式図

 馬車 A と馬車 B が状態 a から1コマ進むと状態 b になります。このとき、馬車 A の先頭 A1 は客席 S の S3 の真下にきます。このことは馬車Aが最小単位時間に1コマ進んだことを意味します。このとき馬車 B の先頭 B1 は、馬車 A の A2 の真下までやってきています。このことは馬車 B が最小単位時間に2コマ進んだことを意味します。

 馬車は最小単位時間に1コマ進むのですから馬車 B が状態 a から状態 b となる過程でA1 の真下に B1 がきている状態 d が存在するはずです。ところが、この状態 d は A1 が S3 を通過する最小単位時間の半分のところで起きています。

 馬車 A と馬車 B は同じ速さですから最小の時間単位は1コマです。しかし状態 d では、B1 が1コマ進む一方でA1は 1/2 コマしか進んでいないということになります。最小単位時間での馬車の移動を考えると、馬車が 1 単位移動しようとすると 2 単位移動しなければならないという矛盾が生じます。

 ゼノンはこのような矛盾が生じたのは物体の運動を認めたからであり、それゆえ物体は運動しないという結論づけました。


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