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1-11. サイコロの出目は予測できるか

サイコロの運動を見極める

 ごく普通の6面のサイコロを1回投げたときに1〜6のある目が出る確率は 1/6 です。確かに 1/6 の確率でどの目が出るか決まるのですが確率で論じて済まして良いのでしょうか。

 19 世紀のフランスの数学者ピエール・シモン・ラプラスは「確率とは計算された常識である」と述べています。これは未来に起きるあらゆる現象は過去に起きた現象によって決まるという意味ですが、どのようなことなのかサイコロを例に考えてみましょう。

 ラプラスの考えはサイコロのどの目が出るかはあくまでもサイコロを投げたときの初期条件とその後の力学的条件によって決まるのであって、決して確率によって決まるものではないということです。つまり、サイコロが投げ出される速度、サイコロのどの部分が床にあたり、その後どのように跳ね返って転がるかなどのサイコロの運動の詳細が判明すればサイコロのどの目が出るかは力学の法則に従って求めることができるということです。

確率とは計算された常識である
確率とは計算された常識である

確率とは計算された常識である

 サイコロのどの目が出るのかを計算で求めることは容易ではありません。それはサイコロの運動が複雑すぎるためです。十分に時間をかければ理論的にどの目が出るかを導き出すことはできるでしょうが、サイコロを投げてからある目が出るまでの時間があまりにも短すぎるので計算で求めようとしても間に合いません。そのような手間と時間をかけてサイコロのどの目が出るかを求めることは非効率的です。それよりもサイコロのある目が出る確率は 1/6 であると考えた方が合理的なわけです。ですからラプラスは「確率とは計算された常識である」と結論づけたのです。

天気予報が当たるのは確率か

 昔は明日が晴れになるのか雨になるのかはよほど明かな気象条件でなければ言い当てることはできませんでした。天気予報もそれほど信用できるものでもなく、子どもたちなどは「明日天気になあれ」と言いながら下駄を蹴り上げて地面に落ちた下駄が表向きなら晴れ、裏向きなら雨などと下駄占いをよくやったものです。

 当時は「天気予報が当たる確率は低い」などと言われていましたが、天気は気象条件によって決まるもので確率で決まるものではありません。現在は気象衛星をはじめとするさまざまな気象観測から得られるデータをもとに確度の高い天気予報ができるようになりました。南海で発生した台風がどのような経路で北上してくるのかも概ね予測することができています。このように確度の高い天気予報が実現できているのは気象データが蓄積され気象の仕組みが解明され過去の事例から気象の変化を見極めることができるようになったからです。天気予報が当たるか当たらないかを「確率」として論じるならば、それはまさにラプラスの言う「確率とは計算された常識である」と言えるでしょう。


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