時間の2つの意味
第3のパラドックスの矢が運動を否定する結論に達する理由は時間の定義を考えてみるとわかります。
ひとくちに時間と言っても時間には2つの意味があります。1つ目の時間は分割ができない幅のない時間、つまり瞬間という意味での時間です。そして2つ目の時間は幅のある時間、つまり間隔という意味での時間です。
この2つの時間を時計で考えてみましょう。次の時計は10時10分25秒を示していいます。この時間は10時10分25秒という瞬間を意味しています。一般にこの意味の時間は時刻と呼ばれています。これが1つ目の瞬間という意味の時間です。
ここで時計の秒針が1秒進むと10時10 分26 秒になります。10時10分25秒と10時10分26秒の間には1秒間あります。これが2つ目の間隔という意味の時間です。
ゼノンのトリック
瞬開を示す時間には幅はありません。つまり瞬間においては移動という概念はありません。ですから瞬間における矢はそこに存在していますが運動しているとは言えません。
運動の対語は静止です。静止とは幅のある時間に動いていないという状態です。ですから運動が否定される条件では静止も否定されてなければならないでしょう。また物理で言うところの存在の対語は消失や消滅です。つまり非存在になります。つまり存在と静止は意味が異なると言えるでしょう。
このように考えると第3のパラドックスの矢において、矢はある瞬間にそこに存在すると言えますが、その矢が静止や運動をしているとは言えないのです。いったいどのような状態と考えると良いのでしょうか。
次の図は飛んでいる矢を撮影した映画のフィルムです。連続したコマを比較して見ていくと矢が移動していることはわかります。しかし、ある瞬間の1コマを見ただけでは矢が運動しているのか静止しているのかわかりません。わかるのはそこに矢が存在するということだけです。このパラドックスは動画フィルムの1コマに撮影された矢と同じと考えることができるでしょう。
瞬間においては、物体の運動も静止も考えることはできないのですから、この第3のパラドックスをもって運動を否定することはできないでしょう。
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