.Header .description 3-05. 光行差から光速を求めたブラッドリー|思考実験の科学史

3-05. 光行差から光速を求めたブラッドリー

 1728年、イギリスのグリニッジ天文台台長を務めた天文学者ジェームス・ブラッドリーは恒星の年周視差を観測しているうちに光行差を発見しました。

 年周視差は地球の公転によって天球上で見える恒星の位置がずれる現象で地球と恒星と太陽をなす角度で表されます。地球から遠く離れた恒星の年周視差は非常に小さいため、その測定は困難を極めました。初めて年周視差の測定に成功したのはドイツの天文学者フリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルです。ベッセルは1838 年に、はくちょう座 61 番星の年周視差を  0.314 秒と求めました。

年周視差
年周視差

 ブラッドリーが年周視差について調べたのはベッセルが年収視差を求めた 100 年以上前のことです。彼は恒星の年周視差を調べているうちに、恒星の見かけの位置が予想よりも大きくずれていることに気がつきました。

 この現象はブラッドリーを大いに悩ませましたが、あることがきっかでその現象の説明がひらめきました。そのひらめきはヨット遊びの逸話として残されています。

 1728 年の秋にテムズ河のヨット遊びに参加していたブラッドリーはヨットのマストの先端に取り付けられている風向計を見ていました。ヨットが進む向きを変えるたびに風向計が指し示す向きが変わることに気がつきました。つまりヨットが進む向きを変えると風向きが変わるように見えたのです。この現象について水夫に聞くと、水夫は風向計の指し示す方向が変わるのは風向きが変わったからではなくヨットが進む向きを変えたからであると答えました。彼は、この話を聞いて恒星の位置がずれるのは地球の公転によるものであることを直ちに理解しました。つまり観測者が移動すると恒星の位置が移動方向にずれて見えることに気がついたのです。この現象を光行差といいます。

ブラッドリーと風向き計
ブラッドリーと風向き計

 光行差は垂直に降る雨の中を自動車に乗って移動したときに自動車内から雨がどのように見えるのかという現象と同じです。次の図のように止まっている自動車が走り出すと、自動車内の人からは雨が斜め前方から降ってくるように見えます。このとき雨がどのぐらい傾いて見えるかは自動車の速さによって変わります。

停止時の自動車と走行時動の自動車の雨の見え方の違い
停止時の自動車と走行時動の自動車の雨の見え方の違い

 これを地球と恒星の関係に置き換えると、自動車が地球、雨が恒星からやってくる光、自動車内の人が地球上の観測者になります。ですから地球上の観測者にとって、恒星からやってくる光は地球が移動する速さの分だけ斜め前方からやってくるように見えます。

恒星の見え方のずれ
恒星の見え方のずれ

 ブラッドリーは 1728 年にりゅう座のガンマ星の観測データから恒星のずれる角度を求め、その値から太陽から地球まで光がやってくるのに要する時間は8分 12 秒と計算しました。このときブラッドリーはレーマーと同様に光速の値を求めていません。当時知られていた地球の公転速度や公転の直径は正確ではありませでしたが計算の途中で約分されて消えるので、太陽から地球まで光がやってくるのに要する時間をほぼ正確に求めることができたのです。このレーマーの理論とはまったく異なる方法によるブラッドリーの光速に関する測定結果はレーマーの光速は有限であるという主張を裏付けることになったのです。


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