ピタゴラスとピタゴラス学派
ピタゴラスを祖とする南イタリアの都市クロトンのピタゴラス学派の哲学者たちは万物の根源は数であると唱えました。ピタゴラスは一般には古代ギリシアの数学者として知られていますが、ピタゴラス学派はピタゴラス教団という新興宗教でピタゴラスはその開祖でした。ピタゴラス教団は霊魂は不滅であり、あの世に旅立った霊魂は何度もこの世に生まれ変わるという輪廻転生の考えを持っていました。また世界や宇宙は厳格な法則で成り立つと考え、輪廻転生から解脱し魂を肉体の支配から解き放つにはその法則を深く理解する必要があると考えました。
やがて彼らは天文学や音楽から世界や宇宙の法則を考えるようになりました。たとえば天文学では月の満ち欠けや季節ごとの星座の動きの規則性に気がつきました。
また音楽では 1 本の弦を奏でたときに出る音の規則性に気がつきました。ドの音が鳴る弦の 1/2 のと ころを押さえて弾くと 1 オクターブ高いドの音が鳴り、2/3のところを押さえて弾くと5度の音(ソ)が鳴り、3/4 のところを押さえて弾くと4度の音(ファ)が鳴ります。このことから弦が美しい音を奏でるのは数の比に関係しているに違いないと考えました。
世界は数の比で秩序づけられている
ピタゴラス学派はこの世界は数の比で秩序づけられており美しく調和していると考えました。そして、この数の比の関係を神聖な数と考えられていた 10 と関連づけ、テトラクテュスという図で示しました。テトラクテュスは次の図で示すような頂点が 1 つ、2 列目が 2 つ、3 列目が 3 つ、4列目が 4 つの点から成る図形です。単純な整数の比によって美しい正三角形ができることを示したものです。
ピタゴラス学派の哲学者たちはこの調和をハルモニアと呼び、数の比が世界をつなぐロゴスであるとしました。そして、数の比でもたらされているハルモニアこそが世界や宇宙の法則であり、この世のものはすべて数に置き換えることができると考えました。そして万物の根源は数であると結論づけたのです。
数学は世界を表す
ピタゴラス学派の万物の根源は数であるという考えは現代を生きる私たちにとっては直感的にわかりやすいかもしれません。
物体が落下したり物体を放り投げたりしたときの物体の運動は数学で記述することができます。人工衛星の軌道も天体の運動も数学で求めることができます。
また数学からの新発見もたくさんあります。たとえばスコットランドの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルは電磁波が実際に発見される 20 年も前に数学によって電磁波の存在を予測しています。アインシュタインも数学によって相対性理論を導き出しました。そして現在の科学者たちは原子よりも小さい素粒子の世界を数学を駆使して解明しようとしているのです。
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