ニュートンはリンゴが落ちるのを見て何に気が付いた?
イギリスの物理学者アイザック・ニュートンはガリレオがこの世を去った1642年1月8日から約1年後の1643年1月4日に生まれました。
ニュートンがケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジで学位を取得した頃、ロンドンではペストが大流行していました。この感染拡大は「ロンドンの大疫病」と呼ばれ1665年から1666年まで続きました。この影響でケンブリッジ大学は閉鎖されることになり、ニュートンは1665年8月から1667年3月の間に2回ほど故郷のウールスソープの生家に疎開しました。
この疎開で時間的余裕ができたニュートンは自身が取り組んでいた研究に集中することができました。その成果が「流率法(微分積分学)」「光学」「万有引力」の三大業績でこの期間は「驚異の諸年」や「創造的休暇」と呼ばれています
ニュートンの伝記に「リンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見した」という有名な話があります。この話は「リンゴが木から落ちるのを見て重力を発見した」と誤って伝えられることもありますが、ガリレオが落下実験をやっていたことからわかるとおり重力はニュートンによって発見されたわけではありません。重力の現象について科学的な説明を初めて試みたのは古代ギリシアのアリストテレスとされています。物体が重力に引かれて落下することはニュートンの時代より遙か前から知られていたのです。
それではニュートンがリンゴが風も吹いていないのに自然に地面に落ちる様子を見て気がついたのはどのようなことだったのでしょうか。ニュートンが地球上の物体が落下する現象を見て考えたのは月はなぜ落ちてこないのかということでした。
紐につないだ物体を振り回すと物体は円運動します。このとき物体には遠心力が働いています。ですから紐が切れると飛んでいってしまいます。月は地球のまわりを公転していますが、地球と月は紐で繋がれていないにもかかわらず地球に落下することはありません。
ニュートンは月が地球から離れずに同じ距離を保って公転しているのは、月に働く遠心力と地球が月をつなぎとめる力がつり合っているからではないかと考えました。そして、地球が月をつなぎとめる力は地球上で落下するリンゴに働く力と同じではないかと気が付いたのです。その同じ力とは重力のことですが、ニュートンは地球だけが月をつなぎとめているのだろうかと考えたのです。
物体はお互いに引き合う
ニュートンは地球に重力があるのであれば月にも重力があるはずではないか、すなわち地球と月はお互いをつなぎとめるように引き合っているのではないかと考えました。さらに地球とリンゴもお互いを引き合っているはずだと考えたのです。
そしてニュートンが導き出した答えは質量をもつ物体の間にはお互いに引き合う力が働いているという「万有引力の法則」でした。地球と月の関係を実験で確かめることはできません。ニュートンは身の回りの現象と天体観測の結果を照らし合わせて思考実験を行いリンゴが落下する現象と天体の運動は同じ原理に基づいているという結論に達したのです。
ニュートンのリンゴの木
ニュートンが「リンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見した」という話は有名ですが、ニュートン自身がこのことを記した著書は存在していません。
ニュートンが「万有引力の法則」の発見のきっかけとなったリンゴの木はウールスソープの生家にありました。このことはニュートンの友人のウィリアム・ステュークリが執筆したニュートンの伝記「Memoirs of Sir Isaac Newton's Life 」に記されています。
ある暖かい日、夕食を終えたニュートンとステュークリは庭のリンゴの木の下でお茶を飲んで話をしていました。するとニュートンはステュークリに「かつて引力についてひらめいた時と同じ状況だ」と万有引力を発見したときのことを語り始めたそうです。
若かりし頃に疎開していたある日、ニュートンはリンゴの木の側に座って考え事をしていました。そのときリンゴが木から落下しました。その様子を見たニュートンは「リンゴが落下するとき地面に向かって垂直に移動するのはなぜか?」と思いました。そして、リンゴが地球の中心に向かって垂直に落下するのは地球がリンゴを引き寄せているからだと考えました。地球がリンゴを引き寄せる力は地球の中心に集約しているため、リンゴは地球の中心に向かって移動する、つまり垂直に落下すると理解しました。地球もリンゴも同じ物体であることには変わりません。地球がリンゴを引き寄せるのであれば、リンゴも地球を引き寄せているはずである。ただし、その力は物質の質量に比例すると結論づけたのです。
ニュートンの生家にあったリンゴの木は「ケントの花」と呼ばれるフランスが原産地の品種です。ステュークリの伝記に出てくる「ケントの花」は1814年に老衰で伐採されたため現存していません。伐採された木で椅子が作られ余った木材は英国王立協会に保存されています。また伐採する前に接ぎ木で育てた苗木が「ニュートンとリンゴの木」として世界各地で栽培されています。
日本には1964年に東京大学の柴田雄次博士の知人だったイギリス国立物理学研究所長のゴードン・サザーランド博士から柴田博士宛に苗木が贈られてきました。この苗木は高接病ウイルスに感染していることがわかり東京大学大学院理学系研究科附属植物園(小石川植物園)に隔離されウイルスの無毒化が試みられました。1980年に無毒化に成功しこの木を元に増殖された「ケントの花」が日本各地で栽培されています。
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