.Header .description 2-17. アキレスと亀のトリック|ゼノンのパラドックス|思考実験の科学史

2-17. アキレスと亀のトリック|ゼノンのパラドックス

アキレスは亀に追いつけないのか

 アキレスは本当に亀に追いつくことができないのか考えてみましょう。次の図のように、亀の前方に亀よりも歩みがのろいアリが歩いているとします。もしアキレスが亀を無視してアリを追いかけるとどうなるでしょう。ゼノンの主張を尊重するとアキレスはアリには追いつくことができませんが、ある時点で亀を追い越すことでしょう。このように条件を変えるのは御法度とゼノンに怒られるかもしれませんが、アキレスは亀に追いつくことは明白です。

アキレスが亀を無視してアリを追いかけると
アキレスが亀を無視してアリを追いかけると

アキレスの亀と二分割

 アキレスの亀は二分割とよく似ています。二分割は、物体が移動して目的地点に達する前に、中間地点に達しなければならないというものです。そして次々と生じる中間地点が新たな目的地点になるのが無限後退型解釈、次々と生じる中間地点が新たな出発地点になるのが無限前進型解釈です。アキレスと亀は二分割の無限前進型解釈に似ていると言えるでしょう。ただしアキレスと亀は運動する物体が2つ登場している点が二分割と異なります。

ゼノンのトリック

 アキレスと亀と二分割の理屈が同じとすれば、ゼノンはなぜ同じパラドックスを2つ例示したのでしょう。運動する物体を2つにして議論を難しくすることによって二分割を補強したのでしょうか。しかし、アキレスと亀をよく考えてみると二分割と異なる点があります。

 二分割は物体が運動する空間を無限に分割し時間は分割せずに物体は動くことができないと結論づけています。それに対して「アキレスと亀」は時間の分割について明示的に述べていないものの、「アキレスが亀の出発地点に達したとき、亀は亀の出発地点より先の地点まで移動している。アキレスが亀を追い越すためには、アキレスは亀が移動した地点に達しなければならない。しかし、そのときには亀はさらにその先の地点まで移動している」という説明からもわかるように、アキレスと亀がお互いの運動を相互に分割しています。ですからアキレスと亀は空間だけではなく時間も分割していると考えることができるでしょう。

 アキレスと亀が目的地点に近づくにつれて空間と時間の分割の間隔は小さくなっていきます。これは空間と時間が無限に分割されていることを意味します。つまり二分割で説明したように、無限に分割したものをすべて加えると有限になるためアキレスは亀に追いつくことになります。

 時間を無限に分割したときに運動はどのように考えると良いのでしょうか。この疑問は第3のパラドックス「矢」でより明確になるでしょう。


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